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負け犬たちの詩

「奇跡の穴」


アフリカのある貧しい村に『奇跡の穴』と呼ばれる、不思議な、小さな穴があった。

直径10㎝ほどのその穴は、内部が暗く、覗いても中の様子はまったく分からなかった。


村の痩せた土地で収穫出来る作物は少ない。

30人ほどしかいない村人たちにとっても、食料の確保は常に悩みの種だった。


ところがある日、その
『奇跡』は起きた。


村はずれにある小さな穴から、次々と食べ物が湧き出てきたのだ。


最初はそれが何なのか分からなかった。

穴から出てくる物は、誰も見た事のない物ばかりだった。


村人たちが知らないのも当然だ。

穴から出てきたのは寿司、ラーメン、カレーに焼肉など、およそこの村には縁のない物ばかりだったのだ。


しかし、その美味しさを知った村人たちは、穴から食べ物が出てくるたびに宴を催し『奇跡』に感謝を捧げた。




都内、某所‐。

ギャル曽根は悩みを抱えていた。


いくら食べてもまったく満腹にならないのだ。

大食いで名を馳せた彼女にとって、それは悪い事ではない。


今なら100人前でも200人前でも平気で食べられそうだ。

しかし、今の状況は明らかに異常だった。


どんなに食べても食べた物がお腹に入っている感じがしない。

以前のように大食いの後、お腹が大きく膨らむ事もなくなったのだ。


何か得体の知れない不安が日に日に高まり、ついに彼女は決心した。


「しばらく断食してみよう!」


それは、彼女にとってタレント生命をかけた一大決心だった。

いや、文字通り命をかけた挑戦と言っても過言ではないだろう。




アフリカ、某村‐。

村人たちは悲しんでいた。

もう何日も穴から食べ物が出てこない。


人々は穴の周りに集まり、祈祷師が雨乞いの舞いを舞った。

彼は雨乞いの祈祷しか知らなかった。


その時、一人の少女が意を決したように立ち上がって言った。

「ねェ、中で食べ物が詰まってるんじゃないの?」

「詰まってる~?」

一同は驚きの声を上げた。

長老は少し眉をひそめたが、少女は気がつかなかった。


「あたし、手を入れてみる!」

「いかん!」

長老が叫んだ。

穴は神聖な物であり、中の様子を想像する事さえタブーとされている。手を入れる事などもってのほかだった。

数人の村人が長老を押さえつけ、しゃべれないように口を塞いだ。

みんな空腹だったのだ。


少女は思い切って穴に手を突っ込んだ。

祈祷師は踊り続けた。




都内、某所‐。

ギャル曽根は気絶して床に倒れていた。

その口からは、か細い人間の腕が突き出している。


腕は何かを探すように、しきりに空をまさぐっていた。

‐END‐



# by hdoggy_dog | 2011-10-08 23:49 | 小説

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